PSRから見るTeladocとLivongoの割高・割安感

2020-08-09

グロース銘柄へ株価調整の波が来ている

コロナ禍に見舞われた2020年の株式市場で最も注目を集めた新興グロース銘柄といえば、Teladoc Health(テラドック・ヘルス)Livongo Health(リヴォンゴ・ヘルス)の名が挙げられるでしょう。

そんな両銘柄は2020年8月現在、合併発表を期に株価を大きく下げる動きを見せました。そしてこの動きと同じく、その他のコロナ禍で輝かしい株価上昇を経験したグロース銘柄の中にも、コンセンサス予想を上回る決算を発表したにもかかわらず暴落もしくはフラットな株価変動となっており先行きの不安を感じさせるものが複数あります。

グロース銘柄について言及している投資家の意見を見てみると、株価上昇の反動、高すぎるPSRの是正、オールドエコノミー銘柄への資金還流が発生しているとの意見が多く目に付きます。いずれも納得感があります。

そこでこの記事では、PSRの観点から先に上げた2銘柄の現在の株価がどこまでの成長を見越した金額となっているのかを考えてみます。

PSRで見る先食い感と時間軸

遠隔医療の市場規模予測

TeladocとLivongoが属している市場は遠隔医療(テレヘルス、リモート診療)です。この分野の世界市場規模は2020年は255億ドル、2025年には556億ドルへと成長するだろうと最新レポートで予測されています。この成長を達成するためのに必要な成長率を計算してみると、単純な年率で約16.8%が必要で下記のような推移となります。

規模感の比較のため、TeladocとLivongoを直近四半期決算の売上高を4倍した値を使用して載せています。

予測対象202020212022202320242025
世界市場規模255.00299348406475556
Teladoc9.64
Livongo3.67
USD 億

株式市場全体のPSR

今回はPSRを用いて割高感の算出を行うため、アメリカ株式市場全体におけるPSRを確認しておきます。ニューヨーク大学のAswath Damodaran教授がまとめた資料によれば、2020年1月時点で代表的なセクターのPSRは下記となっているようです。

セクター銘柄数PSR
情報サービス698.43
ソフトウェア(システム&アプリケーション)3638.23
ヘルスケア製品2425.43
ヘルスケア情報&テクノロジー1294.85
市場全体7,0532.11
via Aswath Damodaran

市場全体にならえば2倍程度、情報サービス系セクターにならえば8倍、ヘルスケア系セクターにならえば5倍程度が落ち着くべきPSRと言えるでしょうか。年若いグロース株であれば15倍のPSRも適温だとする意見もよく目にします。ちなみにGoogle親会社のAlphabetの記事時点のPSRは6.25倍、Appleが7.20倍、Microsoftが11.41倍となっています。個人的にはグロース銘柄であれば楽観的には15倍、テクノロジー系大手に合わせれば7倍、保守的には5倍の目線で考えたいところです。

それではTeladocとLivongoの両銘柄の現在の株価及び発行株式数を基に、市場が期待していると思われる成長率と先読みしている年数を考えてみます。

Teladocの売上高YoYとPSRの算定

2020年8月7日時点で取得できたデータ(株価193.72ドル、発行株式数81,228,000)を使用します。基準とする2020年の売上高は2020年2Qの値を4倍したものを設定しています。簡易化のため売上高以外の一切の数字は変動しないものとして扱っています。

売上YoY202020212022202320242025
60.0%9641,5432,4683,9496,31810,110
16.3倍10.2倍6.4倍4.0倍2.5倍1.6倍
40.0%9641,3501,8902,6463,7045,185
16.3倍11.7倍8.3倍5.9倍4.2倍3.0倍
20.0%9641,1571,3881,6661,9992,399
16.3倍13.6倍11.3倍9.4倍7.9倍6.6倍
16.8%9641,1261,3151,5361,7942,096
16.3倍14.0倍12.0倍10.2倍8.8倍7.5倍
10.0%9641,0611,1671,2831,4121,553
16.3倍14.8倍13.5倍12.3倍11.1倍10.1倍
TDOC : USD Mil

中期的(2~3年)な目線で捉えてみると、意外なことにPSR15倍を目標に現在の株価を見てみると年率10%の成長でも適正化できてしまうように感じられます。高すぎる高すぎるという意見を多くキャッチしていたので戦々恐々としていたのですが、思っていたよりも中期的にホールドする場合は恐れなくともよいのかもしれません。

Livongoの売上高YoYとPSRの算定

2020年8月7日時点で取得できたデータ(株価120.88ドル、発行株式数97,817,000)を使用します。基準とする2020年の売上高は2020年2Qの値を4倍したものを設定しています。簡易化のため売上高以外の一切の数字は変動しないものとして扱っています。

売上YoY202020212022202320242025
80.0%3686621,1912,1443,8606,948
32.6倍18.1倍10.0倍5.6倍3.1倍1.7倍
60.0%3685889411,5062,4103,856
32.6倍20.3倍12.7倍7.9倍5.0倍3.1倍
40.0%3685157211,0091,4131,978
32.6倍23.3倍16.6倍11.9倍8.5倍6.1倍
20.0%368441529635762915
32.6倍27.1倍22.6倍18.8倍15.7倍13.1倍
16.8%368429502586684799
32.6倍27.9倍23.9倍20.4倍17.5倍15.0倍
10.0%368404445489538592
32.6倍29.6倍26.9倍24.5倍22.2倍20.2倍
LVGO : USD Mil

LivongoはTeladocと合併が発表されているため、株主による反対で決定が覆らない限りは単体で業績を確認することはできません。が、現在までの評価のされ方を知るということで仮定として見てみましょう。

Teladocに比べて成長率も高く、100%以上の成長ガイダンスも出されていたため期待もその分多く盛り込まれていることがわかります。PSR15倍を目指していると仮定した場合、中期的な目線では成長率の年率は50%を要求しているようです。

新興グロース銘柄ですしもっと要求が高いかと思っていましたが、割と妥当感のあるレベルに落ち着いているように見えます。

Teladoc + Livongoの売上高YoYとPSRの算定

ご存知の通り両者はTeladocが主導権を持って合併を発表しており、株主反対により覆らない限りLivongoの株式は合併後にはTeladocの0.592株として扱われることになります。なのでTeladocとLivongoの合併後の試算も行ってみます。

ベースとするデータは2020年8月7日時点で取得できたデータを使用します。Teladocの株価193.72ドル、発行株式数81,228,000。Livongoの発行株式数97,817,000、合併後は0.592を掛け算したTeladocの58,631,680になるものとします。(株価193.72ドル、発行株式数139,859,680)

売上YoY202020212022202320242025
80.0%1,3322,3974,3157,76713,98125,165
20.3倍11.3倍6.3倍3.5倍1.9倍1.1倍
60.0%1,3322,1313,4095,4558,72813,965
20.3倍12.7倍7.9倍5.0倍3.1倍1.9倍
40.0%1,3321,8652,6103,6545,1167,163
20.3倍14.5倍10.4倍7.4倍5.3倍3.8倍
20.0%1,3321,5981,9182,3012,7623,314
20.3倍17.0倍14.1倍11.8倍9.8倍8.2倍
16.8%1,3321,5561,8172,1222,4792,895
20.3倍17.4倍14.9倍12.8倍10.9倍9.4倍
10.0%1,3321,4651,6111,7731,9502,145
20.3倍18.5倍16.8倍15.3倍13.9倍12.6倍
TDOC + LVGO : USD Mil

中期的目線である2年後にPSR15倍を目指すと仮定した場合、売上高の成長率は16.8%を期待していることがわかります。奇しくもこの数字は、遠隔医療市場が2025年に予測されている市場規模へ到達するために必要な成長率と一致しています。

つまり市場成長に劣後しない事業を構築できている限り、2年後には適温と感じる株価水準を維持できていると予想できます。直近の株式市場の反応や投資家達の意見を見ているとまだまだ売り足りなく、どこまでも株価が下落していくように思えましたが、期待される数字との比較を行えば買うにしても売るにしても納得感を持って取り組めるのではないでしょうか。

もっとも、忘れてはいけないことは市場は必ずしもPSRを適正にしようと動くわけではないということです。もちろんフェアバリューだと思っている株価の計算自体が間違っていることも多々あります。今回の算出も条件を乱暴に設定しているため、上振れも下振れも大いにあることは間違いありません。